自閉症、アスペルガーはASDに名称統合されている
ASDとは
「ASD(自閉症スペクトラム)」は、それまで「自閉症」「アスペルガー症候群」「特定不能の広汎性発達障害」と呼ばれていた障害を統合した名称です。
「スペクトラム」とは、虹の光のように明確な切れ目のない連続体を表します。これはこの特性が「ある、ない」というはっきりとした区分けをしにくいことが理由の一つです。
ASDには「空気が読めない」、「こだわりが強い」などの特性があります。この特性も当事者によって現れ方が異なります。しかしこれらを「有無」ではなく、「重度・軽度」で見ていく形式をとっています。
関連記事:【発達障害】ASDは『グレーゾーン』になりやすい?原因と対処法は?
自閉症やアスペルガーはどうして「ASD」に統合されたの?
しかし「自閉症」「アスペルガー」とそれぞれ違う名称で診断されていたものが、どうして今になって「ASD」に統合されたのでしょうか。
そこで今回は、
①自閉症、アスペルガーの特徴。
②どうしてASDに統合されたのか
③ASDと自閉症・アスペルガーの違いはそれぞれどのようなところにあるか
について順に説明していきます。
自閉症とは、どんな障害?
自閉症とは
「自閉症」は、言葉のように「自ら心を閉じている病気」という意味ではありません。
自閉症は、主に
○対人関係に特異な傾向がある
○対話などのコミュニケーションの質的障害
○特定の行動パターンを好むなどの、想像力の質的障害
この3つの特性から構成されることが特徴です。
原因は不明で、現在までの研究から先天的な脳機能のズレが原因と考えられています。
重度の知的障害を持っている方から知能指数が高い方まで、幅広い方が自閉症を持っています。また、言葉の発達の遅れを有しているケースがあることも特徴の一つです
アメリカの児童精神科医によって報告された
自閉症は1943年にアメリカで初めて報告された障害です。
レオ・カナーという児童精神科医によって報告されています。『人から話しかけられても反応をしない、目を合わせない』などの、自分の殻に閉じこもっているような特徴から『自閉症』と定義されました。
他者と関わることを避けがちなことが目立つ
このように「他者との関わりを避ける」という特徴に焦点を当てているのが自閉症の特徴です。
アスペルガー(症候群)とはどんな障害?
アスペルガー(症候群)とは
アスペルガー症候群は、自閉症の特徴のうち、「対人関係」と「特定の行動パターンを好むなどの、想像力の質的障害」が特に目立って現れる障害です。
「表情や話し方、動き方が独特」「暗黙の了解を理解しにくい」「独特のこだわりを持つ」といった特徴が目立ちます。
自閉症と異なり、コミュニケーションの目立った障害はないとされている
アスペルガー症候群は自閉症とは異なる点があります。コミュニケーションの目立った障害はなく、言葉の発達の遅れがないというところが自閉症と違うところです。知的発達に遅れのある人はほとんどいないと考えられています。
また、「高機能自閉症」「非定型自閉症」なども厳密にはアスペルガーと区別されています。しかし、「知的発達に目立った遅れがなく、かつ自閉症の特徴がある」という点で共通しているため、一般的にはこれらも広い意味で「アスペルガー症候群」として使用されることがあります。
オーストリアの小児科医によって報告されている
アスペルガー症候群が初めて報告されたのは、自閉症が報告された翌年の1944年です。
オーストリアのハンス・アスペルガーという小児科医によって報告されたものです。アスペルガー氏は特徴について、「大人びた独特の言い回し、特定のものへの強い関心を示す」ことへの論文を発表したのです。
このことからも、アスペルガーは自閉症とは違う観点から見られていることが分かります。
ちなみに、自閉症を報告したカナー氏はこのアスペルガーの論文についてはコメントしていません。当時が戦時中であったことから、存在自体も知らない可能性があるといわれています。その一方で、アスペルガー氏は自閉症についてのカナー氏の論文を目にし「アスペルガーとは似て非なるもの」と公言しています。
自閉症とアスペルガーの特徴をはっきりと区別することは難しい
アスペルガーも、結果的にコミュニケーションのズレがある
アスペルガーは理論上、「コミュニケーションの障害はない」とされています。しかし実際のところはどうでしょうか。
対話自体に問題がなくても強いこだわりや独特の行動により、周囲とのコミュニケーションにズレが起きることがあります。さらに言えば日本では、「空気が読めない想像力の障害=コミュニケーションの障害」と考えられるほどに対話以外のコミュニケーションを重視します。
ですからアスペルガーを持つ方が空気を読めないことで、「自分はうまく話せない…」という悩みに苦しんでいることも多くあるのではないでしょうか。
周囲の状況によって現れ方が変わる可能性もある
このような地域ごとの文化や周囲の環境によって、特徴の現れ方が変わっているだけの可能性も出てくるのです。よって断片的に見ただけで「この人は自閉症」「この人はアスペルガー」と区別してしまうことは難しいと言われてきました。
特性の区別が難しいことから、ASDと呼ばれるようになった
2013年に新しい診断基準が発行され、「ASD」が発表された
発達障害などの判断基準として主に使用されている統計マニュアルに「DSM」というものがあります。現在も研究が進められ、今は「DSM-5」が使われています。
それまで使用していた「DSM-Ⅳ」では、「アスペルガー」と「自閉症」は異なる障害として区別されていました。
しかしながら2013年「それぞれの障害特性の区別が難しい」という問題から、新たに発行された「DSM-5」からこれらを「ASD(自閉症スペクトラム)」という名称に統合されたのです。
自閉症・アスペルガーとASDの違い
さて、あらゆる問題から統合されたASDですが、具体的に自閉症やアスペルガーとどこが違うのか、ポイントをまとめました。
①自閉症とアスペルガーは20世紀に発表されたもの。ASDは21世紀に発表されたもの
②自閉症とアスペルガーはDSM-Ⅳまでの診断基準まで。DSM-5以降からはASDに名称を変更している。
③発表当時の自閉症とアスペルガーの定義を併せ持つのが、ASDの定義となる。
これがASD(自閉症スペクトラム)と自閉症・アスペルガーの違いです。しかし、本質的には「違うものではなく、広く捉えるためにASDを使っている」と覚えておきましょう。
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まとめ
いかがでしたでしょうか。
曖昧なものが苦手なASDにとって、「障害の定義そのものが明確になりにくい」という矛盾した状態になっています。だからこそ自分の中でモヤモヤを抱えやすいのかもしれません。
自分自身を知ることが辛く、知ったとしてもそれを伝えることに苦労する「二重の苦労」に悩んでいるかもしれません。少しずつでも自分の普段の行動を振り返って、特性の理解を進めていきましょう。
【筆者紹介】
Salad編集部員。30代男性。広汎性発達障害、ASD(自閉症スペクトラム)の診断を受けている。診断時はDSM-5が発表される前であったため、診断名は「広汎性発達障害」のみである。しかし当時から「ASD」の特徴として臨床心理士から助言を受けていた。