精神病院は、精神障害者の治療やケアを行っている
精神病院とは
「精神病院」とは、精神障害者の治療やケアを行うための専門病院です。医師などの専門職員を配置し、入院や外来設備を有します。
2006年12月に「精神病院の用語の整理のための関係法律の一部を改正する法律」が施行され、正式名が「精神科病院」に改められています。これは「精神病院」という用語が患者から「収容施設」というイメージを与えるのではと考えられたためです。
日本の精神科病院の現況
日本の精神科医療は、ここ数年の間で変化しています。過去には入院や外来診療を主に行っていました。しかし近年は精神科デイケアなど、リハビリテーションを行うところも増えています。
患者数にあっても平成11年には204.1万人であったのが、平成26年には2倍近い392.4万人まで増加しています。変化の特徴は「入院患者がほぼ変動がないのに対して、外来患者は増えている」ことです。
かつては、精神疾患の治療は入院診療が基本でした。しかし現在は「入院による生活環境変化でのストレスから、症状が悪化する可能性がある」という考えが主流になってきたことから、外来診療が増えてきているのではないでしょうか。
また、うつ病などの気分障害を持つ患者数が増加していることも特徴的です。
参照:参考資料 – 厚生労働省
イタリアは精神病院を廃止している
精神科病院廃絶の法律がある
さて、話はイタリアの精神医療に移ります。
イタリアでは世界初、この「精神科病院」を廃絶するという法律ができています。1978年5月に公布された『イタリアの精神医療・福祉に関する法律』により、精神科病院(イタリアではマニコミオと呼ばれる)の廃絶が始まったのです。
当時の医師と患者との差別をなくし、対等に向き合える関係にしたかった
この法律は、フランコ・バザーリアという精神科医を中心に生まれました。そのため、「バザリア法」とも呼ばれています。
バザーリアは当時の医師と患者の関係に不満を持っていました。患者を収容することでの診療では「医師と患者との対等な関係を築きたい」と感じ、改革に踏み出したのです。
1980年以降、精神科病院の新設や新規入院も禁止された
この法律の影響で、1980年には
・精神科病院の新設
・既存の精神科病院への新規入院・再入院
を禁止しました。
しかし、以降イタリアの精神医療はどうしているのでしょうか。
以降治療やケアなどは、原則地域精神保健サービス機関で行う
精神科病院を廃止したのちは、原則地域精神保健サービス機関で行うとされました。次に現在のイタリアの精神医療についてご紹介します。
現在のイタリアの精神医療はどうなっている?
地域精神保健センター
日本でいう「精神科」のポジションです。通常月曜から金曜まで、土曜の午前中に開いています。
住民はどんなときも直接予約をすれば、家庭医の紹介なしで受診できるのです。各家庭の訪問する活動も行われています。患者の症状の重さやニーズに応じて治療などの方針が決められています。基準を設けることのは患者にも分かりやすく伝え、安心して治療を受けるためです。
総合病院内の精神科入院病棟
精神科病院は廃止されています。そのため、精神疾患を持つ方で入院を要する場合は効率の総合病院に付設された病棟に入院できます。基本的には患者の意思に基づいた自由入院が基本です。
この施設も、地域保健サービス機関の管理下に置かれています。緊急時や本人が入院を拒否しているケースなどやむを得ない場合に限り、強制入院(TSO)の方法をとるのです。この場合も事前の手続きには市長や市長が任命する保健担当長の承諾が必要になります。さらには48時間後に裁判所に通報しなければならないなど、厳しい規制が設けられているのです。
デイホスピタルやデイセンターのような生活・居住訓練施設
症状が比較的重いケースの際、中長期的な治療を行う施設になります。総合病院の一角にあるケースもありますが、ここも精神保健センターと連携しているのです。
居住施設では日本の精神科デイケアのような心理社会的リハビリテーションにも力を入れています。精神障害を持つ方それぞれのニーズに合わせたプログラムを目指して、現在も取り組みがなされています。
患者の社会的な孤立を避けるため、都市部に設置するようにも定められています。
生活訓練施設に相当する居住施設
日本でいう援護寮などの生活訓練施設に相当する居住施設があります。日曜を除く毎日開所しており、社会生活のための訓練などを行います。
このように精神医療を組織化したことで、患者が自由に治療やケアを受けることができるシステムを進めていったのです。しかしながら、廃止したことでの問題もあります。それはどのようなものなのでしょうか。
精神病院が廃止されたことでの問題は?
関連施設の設置の進行に地域差がある
改革後、先ほどご紹介した地域保健サービス機関の設置に乗り出したわけです。しかし法律で設置が義務付けられているにもかかわらず、地域によって差が開いているのが現状です。
社会復帰資源の設置が遅れている
「社会復帰資源」とは、利用者のニーズを満たすことや問題解決のための制度や施設のことです。日本で言えば、精神障害者保健福祉手帳や自立支援医療、各地域の就労支援センターなどが該当します。
イタリアでは、改革後総合病院内の入院病棟の整備が先行しています。そのため、このような「社会復帰をするための制度や施設」の充実が先送りにされているのです。
治療はできても、その後の社会復帰には届かないケースが出る問題があります。
改革の影響で、日本の精神医療にも変化があった可能性も
入院診療の意義が変化してきた
冒頭で触れた入院診療のあり方が変わったことも、この改革の影響かも知れません。
かつては精神疾患を持つ方の治療は「入院」が基本でした。しかし、現在は入院し生活環境が変わることで、症状が悪化してしまうリスクを考えるようになりました。そのため外来での通院を基本とし、生活環境を変えずに治療できるスタイルを重視しています。
現在入院するケースは、
・本人に症状の自覚がない場合
・治療が必要と反出されているにもかかわらず、これを拒否している場合
など、重度の症状の際に入院するべきとなっています。
このように治療の際、患者の意思を優先し対等な関係を築くスタイルは、このイタリアの改革の影響かも知れません。
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まとめ
いかがでしたでしょうか。
日本での精神医療が世界でも行われているかというと、イタリアのように全く違うスタイルで治療や支援を考えている国もあります。
近年、日本の精神医療も変化し続けています。この改革がなければ、自由に治療や支援を受けられるシステムはなかったかもしれません。今後日本はもちろん、世界の精神医療がどう変わっていくか。当事者としてチェックしていきましょう。