ASDは、暗黙の了解などコミュニケーションで苦労しやすい
ASDを持つ方は「曖昧な表現」が分からない
発達障害の一つ、ASD(自閉症スペクトラム)を持つ方がコミュニケーションで苦労するケースが多いです。具体的には、暗黙の了解など「言葉にない、曖昧な部分」を理解することに苦しみやすいことなどが挙げられます。これは障害特性によるもので、治療などで変えられるものではありません。
そのため、周りのコミュニケーションに無理して追いつこうとすることで、負担がかかりうつ病などを発症してしまうケースもあります。
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今回はこの「ASDを持つ方のコミュニケーションの問題」に焦点を当てて、問題解消に向け改善法をオフィス内での具体例を用いて紹介していきましょう。
【ASD】コミュニケーションで困りやすい具体例(事務オフィスの場合)
まずは具体的にどのようなコミュニケーションに困りやすいのか、例を挙げて確認していきましょう。
オフィス内での具体例(事務作業の場合)
【A係長が、部下であるASDを持つ方に仕事をお願いしたい場面】
(A係長の意図)
コピー機で大量印刷の操作をセットした。印刷終了まで時間がかかるため、その間は自席に戻って業務をしていたい。自席にいる間、コピー機付近にいる部下に印刷の状況を確認してほしい。
(『ASDを持たない』Aさんにお願いしたケース)
A係長「Bさん、ここのコピー機を見ておいてもらえる?」
Bさん「分かりました。」
(A係長自席にいる間に印刷終了)
Bさん「係長、印刷が終わってきたのでお持ちしました。こちらに置いておきましょうか?」
A係長「ありがとう。助かったよ。」
印刷が終了していれば、A係長のところに持っていく又はその後の対応について伺いに行くという流れが自然でしょう。一方、ASDを持つCさんが同様の場面に直面した時を見てみましょう。
(ASDを持つ、Cさんにお願いしたケース)
A係長「Cさん、ここのコピー機を見ておいてもらえる?」
Cさん「分かりました。」
(A係長自席にいる間に印刷終了)
A係長、しばらくして終了しているコピー機に向かう。
Cさん「コピー機を見ておきました。」
A係長の心中「(持ってきてくれたっていいのに…)」と不満顔。
Cさんの心中「(A係長はなんで表情が曇っているのかな…?)何か僕、悪いことをしたのかな・・・?」
両者でのコミュニケーションの特徴(一例)を比較してみました。ASDを持つ方は、『見えていない・はっきりとしていない』言葉にない部分に対して行動できていなかったのが分かるのではないでしょうか。
曖昧な表現では判断できない
このようにASDを持つ方は、「見る」という言葉の中に『印刷状況を見て、状況次第で対応する』というところまで理解できなかったわけです。もちろんASDを持つ方でも個人差はありますが、このような曖昧な表現に苦労しやすいケースは多いでしょう。
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このような問題を改善する方法として、ASDを持つ方が望む4つの「明確にしてほしいこと」を紹介します。
【ASD】コミュニケーションで明確にしてほしいこと
1) 行動範囲(目的)
今回の例ですと、「コピー機を見る」ことが一体どこまで行うべきことを指しているのかが分からないわけです。見る以外に何かしないといけないまでは分かっても、具体的な行動まで想像できないこともあるでしょう。
対処として、これをマニュアルなどにして「決まり」や「パターン」として目的を明確にするよう心掛けてみましょう。ASDを持つ方が「ここまでは許される範囲だから」と安心して行動できるきっかけになります。このコピーの例ですと、指示として「コピー機の印刷が終了していたのを見つけたら、係長に印刷終了のメモを渡すこと」などの表現となるのです。
2) 成果指標
ASDを持つ方は常に不安を抱えていることが多いです。『どれだけ仕事ができているのか』『どこまで頑張ればよいのか』など、見えない道のりに向けて取り組むだけでも精神的負担になりやすいのです。
対処としては、できる限り公的、または明確な評価や目標を伝えることです。『そんな厳しい条件を言っても大丈夫なのか』と不安を感じるかもしれませんが、ASDを持つ方は何を求められているのか分からない方が辛いのです。反対に道筋がはっきりしていれば、厳しい条件でも努力できる強さを持っていることもあります。
また、評価や成果が低かった場合に「どのようにすれば評価が上がるのか」と言う方法も明確にすると良いでしょう。双方で意見交換しながら決めていくことが理想的です。
3) 自分ができないこと
つい「サポートする対象」として、一方的にASDを持つ方の苦手な事項を聞いてしまうことはありませんか。このような対話方法の場合、ASDを持つ方が依存してしまうリスクがあります。これはASDを持つ方には上司の「できている部分」しか見えていないことがあり、『何でもできる人』と誤解してしまうからです。
自分が上司として接する場合は、現場の仕事を1から10まで出来ない(事業牽引、社外折衝など行うべきことが多い)ため、いつでもフォローできるわけでないことなど、具体的状況を交えて説明を行ったほうが賢明です。依存された姿勢で、業務に臨まれてしまうと、のちのちトラブルの元(『上司は何もしてくれない…』と悩んでしまう)になります。
また、同僚となる立場の場合は、お互いの知る情報が均等になるよう情報を公開するよう心掛けていくと良いでしょう。自分の苦手な部分なども同じように伝えることで、ASDを持つ方は依存心や劣等感を持たず、安心して関わりやすくなるのです。
4) 報連相の機会
コミュニケーションの基本は、「報連相(報告・連絡・相談)」です。ASDを持つ方は個人差はあるものの、特に事前に結論を自力で出しにくい『相談』で悩みやすいです。
これは報告と連絡は言うべきことを事前にすべて「台本化」しやすいために行える場合もありますが、相談は相手の返答を確認してからでないと結論が見えにくいです。そのため、どうしても相談を先延ばしにしてしまうことがあります。
対処として、報連相の機会を定例化することが理想的です。「週に1回」「月末の最終日」など「決まり」として指定することで、ASDを持つ方の『相談するハードル』を下げることに繋がるのです。
またコミュニケーションは、双方のタイミングに関係ない方法が良いでしょう。どちらかが話したいときに「不在」「既に退勤」などで関われないことが増えることも、ASDを持つ方のストレスになるためです。そのため『仕事中での困りごと』や『業務での要望』など、予め項目として様式を作っておくとスムーズになります。様式を書面やメールなどでやりとりすることで、コミュニケーションの漏れも少なくなります。
具体的には「提出時期の指定」や「心身の状態を数値で表記」「困りごとや要望」などを事前に様式として作っておくことで、ASDを持つ方が答えやすくなります。また、仕事内容や当事者本人の性格によって工夫していくことも大切です。
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まとめ
いかがでしたでしょうか。
同じASDを持つ方でも、経験や環境の違いで個人差があります。しかしながら多くの方が困りやすいのが『曖昧なことに自分で区切りをつける』ことではないでしょうか。
ASDを持つ方とのコミュニケーションがスムーズに進まなくなるリスクと不安を解消するために、
1)行動範囲(目的)
2)成果指標
3)自分のできないこと
4)報連相の機会
上記のこの4つを明確にし、お互いが負担なく業務を行えるよう心がけましょう。