『人工内耳』とはなに?
人工内耳とは
人工内耳(じんこうないじ)とは、聴覚障害を持ち補聴器を装着しても効果が不十分であると認められた際、唯一の聴覚獲得法です。現在世界で最も普及している人工臓器の1つになります。
個人により聞こえ方や音の表現が異なることがありますが、術後にリハビリテーションなどを行うことで、徐々に言葉が聞き取れるようになるケースが多いです。
利用者は徐々に増えている
「人工内耳」と目にして、「補聴器以外にも方法があるの?」と感じた方もいるかもしれません。または聴覚障害を持ちながら「補聴器だとよく聞こえないし、かといって手話を覚えるのが大変…」と苦労していることもあるかもしれません。
2017年までの10年間で、国内の人工内耳の手術件数は増えています。海外の状況と比較すると件数は少ないものの、しかし7歳未満の子どもと高齢の方を中心に徐々に件数が増え、その他の年齢の方の件数も増え始めているのです。
2001年10月現在まで患者数は2200人まで達し、実施できる施設も60施設まで増加しています。
参照:人工内耳について:一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
参照:DINF 障害保健福祉研究情報システム 人工内耳について
そこで今回は、
・聴覚障害を改善する方法に、人工内耳という手段があること
・聴覚障害を抱える方と関わる際に、「人工内耳」を意識すること
この2つを目的として、人工内耳はどのようなものなのか、補聴器とはどう違うのかについて説明していきましょう。
【ポイント】人工内耳の仕組み
まずは、人工内耳がどのようにできているのか、仕組みを説明していきます。
人工内耳は、内耳への刺激を助ける働きを持つ
人工内耳は、耳の鼓膜や中耳の奥にある「内耳」という組織に関わります。この内耳の働きをポイントにまとめると、
・音を聴く「蝸牛(かぎゅう)」
・身体の平衡感覚を保つ「前庭(ぜんてい)」「半規管(はんきかん)」
この2つがあります。さらに耳から入った情報の流れをまとめました。
【人間の聴覚の流れ】
①音が発生する→②鼓膜が振動する→③(中耳)耳小骨→④(内耳)蝸牛→⑤脳に伝わる→⑥「音」と認識する
このような流れになります。蝸牛にある有毛細胞に刺激が加わることで電気信号に変換され脳に伝わることで「音」と認識できるのです。
聴覚に障害を持っている場合、この蝸牛がダメージを受けているケースがあります。現在の医学ではこの蝸牛の機能を回復することは難しいと言われているのです。そのため聴力を改善する方法として、この蝸牛の働きをカバーするために生まれたのが「人工内耳」になります。
人工内耳は、手術により蝸牛の中に電極などを埋め込む
人工内耳は、主に蝸牛(内耳)に刺激装置(電極)を埋め込む装置です。事前にCT検査やMRI検査などの適性検査を受けたのち、該当した場合に手術を行い設置します。この手術の所要時間は、おおむね2時間程度です。全身麻酔が可能であれば、年齢制限などもありません。
設置の際に受診コイルやIC回路、電極を埋め込みますが、全て頭皮の下に埋め込まれるため、髪を洗うことや水泳などもできます。器具に電池を要するものもありますが、交換の必要はありません。
人工内耳には種類がある
人工内耳には、主に2つの種類があります。
・手術で耳の奥に埋め込むタイプ
・音をマイクで拾い、耳内に埋め込んだ部分へ送るタイプ(対外部)
この2種類になります。体外部の場合、形は耳かけ式の補聴器に似ているものが主体です。しかし近年では、耳にかけず後頭部に取り付けるコイル一体型の対外装置も製品化されています。
人工内耳の対象者は?
では、どのような方が人工内耳の使用対象となるのでしょうか。
聴覚障害を持ち、補聴器の装用効果が認められない方
冒頭で触れたように、人工内耳の使用に該当するケースは「聴覚障害を持ち、補聴器をつけても効果が認められない方」です。身体障害者福祉手帳を所持している場合、2級~3級の方が該当するとされています。
日本耳鼻咽喉科学会が示す適応基準に該当する方
日本耳鼻咽喉科学会は成人に対する人工内耳装用の適応基準として
・90デシベル以上の高度難聴であること
・かつ、補聴器装用効果が乏しいこと
これを適応基準としています。さらに上記の基準に該当しない場合への残存張力活用型人工内耳の適応基準として
・500Hzまでが65デシベル以下
・2000Hzが80デシベル以上
・4000Hz以降が85デシベル以上
・補聴器装用下での静寂下言語音聴機能が60パーセント未満
これらすべてに該当する場合に適応されるとしています。
参考:残存聴力活用型人工内耳 | 信州大学医学部 耳鼻咽喉科学教室
参考:新医療機器使用要件等基準策定事業(残存聴力活用型人工内耳)報告書
『人工内耳』と『補聴器』との違い
ここで補聴器との違いについてポイントを整理しておきましょう。
①対象者が異なる
人工内耳の適応基準は、「補聴器の装用効果が認められない場合」になります。そのため対象者が異なるという点が違いの一つです。
②手術を要する
ここまででお伝えしたように、人工内耳は術前検査を行った後手術によって埋め込むものという点で、補聴器とは違いがあります。
③術後リハビリテーションを要する
人工内耳設置のあとすぐに聴力が回復するわけではなく、多くの場合はリハビリテーションを継続することで改善していきます。
④術後MRI検査をする際には医師との相談が必要となる
人工内耳は、強い磁気により問題が生じてしまうことがあります。そのため、術後MRI検査を受ける際には医師へ相談する必要が出てきます。手術や治療に用いる電気メス、神経刺激器なども使用制限がある場合があります。
しかし日常生活において電子レンジや電磁調理器、今ではIH調理機器なども普及されていますが、このような家電製品使用に関しての影響はありませんのでご安心ください。
参考:聴力レベルによる補聴器と人工内耳の比較 (第 1 報)
参考:【耳と聞こえのQ&A】:社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
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まとめ
いかがでしたでしょうか。
人工内耳の機能の種類、対象となる適応基準などは現在も研究が進められ、今後も変化すると考えられています。将来的にはFM受信機などを埋め込むことによって、1階と2階とで会話ができるという「人工内耳にしかできないやり取り」のための研究などが今後の課題となっているのです。
また、現在は内耳に障害を受けている場合にのみ人工内耳が有効とされていますが、今後は脳神経に障害を持つ場合でも有効になることも研究課題となっています。
聴覚障害を持つ方も、障害を持たない方や別の障害を持つ方も、人工内耳を知ることで今後の「聴覚障害」との向き合い方を見直してみるとよいかもしれません。