【発達障害のせい?】特定の人に執着する人の問題
特定の人への興味の偏り
発達障害、特にASD(自閉スペクトラム症)を持つ人は特定の物事に強い興味を示す傾向があります。
例えば電車のダイヤや特定のキャラクター、あるいは特定の人物などに深く関心を抱くことがあります。
強い興味の対象が特定の人、特にあまり親しくない間柄の人になると、相手に不快な思いをさせてしまったり、トラブルに発展したりする可能性があります。
この記事では、特定の人に執着する行動の原因やその対処法について詳しく解説します。
また、発達障害を持つ人との良好な人間関係を築くためのヒントもご紹介します。
具体的な事例:職場や友人関係における困りごと
具体的な例としては、例えば
・職場で普段ほとんど人と話さないのに、特定の人には相手の反応に構わず話しかけ続ける人がいて戸惑っている
・友人の集まりで、特定の友人にばかり話しかける人がいて、他の人たちが疎外されているようで雰囲気が悪くなる
といったケースは身近なところで起こりうる問題です。
これは障害のあるなしにかかわらず、誰もが起こす可能性のある事態です。
原因が発達障害でない場合もあることを理解する
特定の人に執着する行動の原因は、必ずしも発達障害だけとは限りません。
発達障害以外の障害や病気が原因の可能性もある
特定の人に執着する行動は、強迫性障害や双極性障害、発達障害以外の精神疾患に起因する場合もあります。
安易に他の人を障害・病気と決めつけたり、拡大解釈して「○○障害の人は人に執着する」と思い込むことは差別や偏見につながります。
障害・病気の症状について正確な知識に基づいて判断する必要があるときは、専門家(精神科の医師)に相談しましょう。
参考:強迫性障害|こころの情報サイト(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
参考:家族、友人として|躁うつ病(双極性障害)|病名から知る|こころの病気を知る|みんなのメンタルヘルス|厚生労働省
個人の性格が理由の可能性
誰もが経験するような特定の人への好意や強い興味が、度を超えて表れているケースも考えられます。
赤ちゃんや幼児の頃に強い好意や興味から特定の人に執着することはよくあることですが、成長するにしたがって多く人の場合、相手や周囲の人に配慮して、好意や興味があっても行動に表さないように注意するようになります。
その人個人の経験の影響で、社会的なスキルを習得するのが遅れているために「特定の人に執着する」行動が起こっている場合があります。
許容するべき範囲と程度
特定の人に強く興味を持つこと自体は、だれにでもある自然なことです。
しかし、それが原因で不適切な行動をして他の人を不快にさせたり、関係性を損なったりして、周囲の人が困る場合は、何らかの対応が必要になります。
自分があてはまると思ったら
自分が誰かに執着されていると思うとき
もし、あなたが特定の人に執着されていると感じているときは、問題解決に向けて状況を客観的に判断するために、まずは状況をより詳しく確認しましょう。
・相手は誰のなのか(例…プライベートな交友もある職場の同僚/クラスメートで毎日会うが、親しくはない相手)
・具体的にどんな行動が迷惑なのか(例…個人のプライバシーに関する質問をしてくる)
・その行動はどれぐらいの頻度であるのか(例…1週間に1回/1日に10回)
・何に対して、どのような悪い影響があるのか(例…業務を妨げて仕事の成果に影響を及ぼす/相手に話しかけられたくないため、不安になる)
例を挙げて考えてみましょう。
例①…親しくない同僚が、休憩時間に一緒に食事をとりたがったり、会社以外にプライベートで会いたがったりして誘ってくる。
何度も断っても、繰り返し誘ってくる。
また、相手の反応に構わず、個人的な話題について質問してくる。
プライバシー保護のために、個人的な情報を話したくないし、会社以外で接点を持ちたくない。
例②…同じフロアで働く他部署の知らない人が、会うと挨拶してくる。
タイミングは出社時やエレベーターで同乗したときなど、1日に1回程度で、社内で会わなければ話すことはない。
「今日は暑いですね」など、個人情報と関係のない話題について話しかけてくる場合もある。
知らない人なので不安に感じて、怖いと思う。
このような具体的な情報は、解決や対策を求めて他の人に相談したときに、状況を客観的に判断する材料になります。
①の場合はほとんどの人にとって迷惑な行動の可能性が高いですが、②は相手が不適切かつ迷惑な行動をしているとは必ずしも断定できない状況です。
自分で判断に迷うときには、他の人からはどう見えるか、周囲に意見を聞いてみるのも参考になります。
また、具体的に説明できると、周囲に相談して協力を求めるときに状況をスムーズに伝えられます。
自分が誰かに執着していると思うとき
あなた自身が「自分は周りの人に『特定の人に執着している』と思われているのではないか?迷惑に思われていないか?」と不安に思う場合もあると思います。
そのような場合も、自分の気持ちはいったん置いておいて、第三者の視点で状況を客観的に考えてみると参考になるかもしれません。
たとえば職場にAさんとBさんの2人がいたとします。
AさんとBさんは同じ職場に入社したことにより出会った同僚で、親しい友人関係ではありません。
業務上の連絡以外のつながりはありません。
そして、Aさんは下記のように思っています。
「職場ではBさんだけとしか話せない。」
「Bさんだけが優しく話してくれる。だからBさんとなら話せる。」
「Bさんがお休みだと、職場で話せる人がいないので困る。」
このとき、Bさんはどう思うでしょうか?
相手のBさんがAさんの過剰なコミュニケーションや近すぎる距離感を負担に感じているかもしれないと想像できるでしょう。
自分がそのような状況になってしまっていないか?
自分の気持ちはいったん置いておいて、第三者の視点ではどう見えるかということを客観的に想像してみましょう。
相手が職場で1人だけ自分と立場が近い場合など、やむを得ずそうなる場合もあります。
・同じ時間帯に勤務しているのは自分と相手の2人だけ
・同年代の社員が一人だけで他の人たちとは年齢に大きな差がある
・同性の社員が一人だけで更衣室やトイレなどの同じ施設を利用する機会が必然的に多くなる
…などの場合です。
このような場合はつきまとっているわけでも、執着しているのでもない場合が多いと考えられますし、状況を他の人に説明して意見を聞いたら「わざとではないと思う」と言われることが多いでしょう。
自分の状況を客観的に判断するためには、下記のような点を自分でチェックしてみるとよいでしょう。
・自分のコミュニケーションの相手は偏っていないか?
・自分と相手の立場や関係にふさわしい、適切なコミュニケーションができているか?
たとえば職場が同じ人に対して、友人と接するときと同じように接するのが不適切になる場合もあります。
・あなたと話すとき、相手の表情や反応に困惑のサインはないか?
たとえば「いつも反応が短く、そっけない。会話をすぐ打ち切ろうとする。おもしろい話題ではないのに、話しかけるといつも笑う。話しかけると、周囲の人と目配せして笑う。」などは困惑を表すサインかもしれません。
自分が相手に迷惑をかけていないか、相手に嫌われていないか不安に思う人は、相手を気づかう思いやりのある人なのだと思います。
そんな人が「話しやすい相手だ」と思って信用している相手に嫌われているかもしれないと想像するのは、つらい経験でしょう。
ただ、不安に思っているだけでは状況を変えるのは難しいです。
自分の行動に対して客観的な判断をして、不適切な行動があればを変えることで、相手に負担をかけず、今後も良好な関係を続けていきやすくなります。
【問題解決のカギ】なぜある人にだけ興味を持ち、執着するのか?
特定の人にしか興味を持てない原因
興味の対象が限定される理由と解決のカギ
発達障害の特性の一つとして、特定の物事や活動に強い興味を示す傾向があります。
これは脳の働き方の違いが原因と考えられています。
残念ながら、この”強い興味”が原因となって、場合によっては不適切な行動につながってしまうケースもあります。
一方、本人がそのような自分の特性を意識できれば、不適切な行動を自覚してコントロールすることにつなげられ、有効な対策となります。
人との距離感が掴めない理由
障害の有無にかかわらず、人によっては社会的なスキルの習得の遅れがあり、人と適切な距離感をとれない場合があります。
それは経験によるもの-つまり、その人が社会的なスキルや人との距離感を学ぶ機会がなかったためかもしれません。
また、発達障害の特性の一つに「社会的な状況や相手の気持ちを正確に読み取るのが難しい」ことがあります。
それが原因で相手が不快になっていることがわからず、他者と適切な距離感が保てないことがあります。
【実践できる対策】困ったときの対処法
言葉で伝えるときのポイント
具体的な言葉で伝える
「朝の忙しい時間帯は業務に集中したいので、その話は違うときにしてもらえますか?」「今は業務時間内なので失礼します(といって個人的な会話を打ち切り、その場から去る)」など、具体的な理由を伝えることで、相手は自分の行動が周囲にどのような影響を与えているか理解しやすくなります。
相手の気持ちを尊重する
まずは自分が感情的にならなずに冷静に対応することがポイントです。
感情的になっていきなり「気持ち悪い」「もう話しかけないで」など強い言葉を投げつけてしまうと、その対応自体が後でトラブルに発展するおそれもあります。
否定的な言葉を使わないことで、相手を刺激せず、より安全に距離をとることができます。
境界線を明確にする
具体的な行動で示す
相手が近づきすぎる場合は一歩離れる、相手に触られたくない場合は静かに手を離すなど、物理的に距離をとる行動で表現するのも有効です。
職場において明らかな個人情報やパーソナルスペースの侵害がある場合は、職場の上司、相談窓口や公的機関など、専門の窓口を通して通告し、対策を求めましょう。
第三者に対応してもらうことは、再発防止のための抑止力にもなります。
参考:6「個の侵害」型のパワハラ|ハラスメントの類型と種類|ハラスメント基本情報|あかるい職場応援団 -職場のハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト-
参考:パーソナルスペースから学ぶコミュニケーション法 | 医療法人社団 平成医会
断る練習をする
相手の要求を断る場面を想定して練習をすることで、実際の場面でもスムーズに対応することができるようになります。
断る理由・断るときの表現を前もって考えておけば、実際の場面で冷静に対処しやすくなります。
物理的な環境の調整
環境調整によるストレス軽減
発達障害のある人が職場の環境にストレスを感じて不安になり、「安心できるもの」として特定の人にに執着してしまっている可能性もあります。
そのような場合、環境を変えることで問題となる行動が抑えられ、状況が改善する場合もあります。
騒音対策: ヘッドホンや耳栓を使用するなど、騒音を遮断するようにする
照明調整: 明るすぎる光を避け、リラックスできるよう照明を調整する。
居場所の確保: 落ち着ける場所を確保する。カームダウン・クールダウンスペースの設置。
相談相手の確保:困ったときに相談できるキーパーソン、サポート役を決めておくことで、サポート役になる側の人も業務の一環として、コンプライアンスに基づき、モラルと職業意識を持った対処ができます。
専門家への相談
自分だけの力で状況が変えられないと思うときは、上司や信頼できる第三者に相談することも選択肢のひとつです。
職場に相談できる窓口があれば、そこで相談してみるのも良いでしょう。
また、発達障害の知識のある医師や会社の産業医・保健師、支援者(ジョブコーチ)に相談することもできます。
【当事者】自分が”加害者”になっていないか不安な人はどうする?
自分の行動を客観的に振り返る
問題を解決するためには、自分が意図せず相手に不快な思いをさせている可能性を認識し、客観的に自分の行動を振り返ることが重要です。
日記や記録をつける: 相手とのやり取りがあった時の状況や自分の言葉、相手の反応などを記録すると情報を客観的に判断しやすくなります。
信頼できる人に相談する: 友人や家族など、信頼できる人に自分の行動について相談し、客観的な意見を求めるのも参考になります。
専門家への相談: 精神科医やカウンセラーに相談し、客観的な視点から自分の行動を分析してもらうことも有効です。
専門家ならではの知識に基づいた、有用性のあるアドバイスが期待できます。
【職場での具体的な事例と対策】自分から行動してみよう
下記にいくつか、一般的によくある具体的な場面について、問題点とそうなってしまう原因、その対策を挙げてみます。
[ケース1]特定の同僚に頻繁に話しかける
問題点: 相手が負担に感じていると思われること、他の人と話せないことが問題
原因: 共通の趣味や話題を見つけやすく、安心感を感じるから。
他の人とのコミュニケーションが困難で、その人としか話せないから
対策:
頻度を調整する: 話しかける回数を意識的に減らすことで、相手の負担を減らす。
グループでの交流: 複数人で話す機会を増やし、特定の相手に集中しないようにする。
話題の幅を広げる: 他の同僚とも会話できるよう、共通の話題を探す。
[ケース2]個人的なことに関する質問をする
問題点: 相手のプライバシーを侵害し、不安にさせていること
原因: 相手に興味があり、もっと仲良くなりたいと思っているから。
親しい人がいないことは悪いことだと思っていて、(誰でもよいから)相手と親しくなりたいから。
対策:
プライベートな質問は控える: 相手のプライベートなことに関しては、深堀りしないようにする。
自分の思い込みについて理解し、考え直す: 「親しい人がいないのはおかしい」「友達がいない人は、問題のある人」といった思い込みが原因になっているかもしれません。
友達と思える人、親しい人がいないことで不安になっているのかもしれませんが、職場で、しかも親しくない相手にそのような親密な役割を求めるのは不適切かもしれません。
実際の相手と自分の関係について考え直してみましょう。
相手の反応を見る: 相手の表情や言葉から不快に思っているかどうかを察知し、そのサインに気づく。
[ケース3]相手のデスクに頻繁に近づいて話しかけたり、相手のものに触ったする
問題点: 相手のプライバシーを侵害し、不安にさせる。相手の安全を脅かしている。
原因: 距離感がつかめず、無意識に相手のパーソナルスペースに入ってしまう。
社会的スキル、コミュニケーションスキルが不足している。
対策:
物理的な距離を保つ: 意識して相手のデスクからある程度の距離を保つ
許可なく物を触らない: 相手の物を触る前には必ず許可を得る
非言語的なサインに気をつける: 相手が不快なサインを出したら、すぐにその場を離れる
周囲の人への配慮
主に、具体的に「してはいけないこと・注意すること」について述べてきましたが、その背景にある意図は相手への配慮としてまとめることができます。
下記のような、相手への配慮を示す姿勢を意識しましょう。
相手の気持ちを尊重する: 相手の言葉に耳を傾け、共感の言葉をかける
相手の立場に立って考える: 相手の視点から物事を考え、なぜそのような行動をとるのかを理解しようと努める
共感の言葉を伝える: 相手の気持ちに共感する言葉を選ぶ
自己肯定感とストレス
障害者本人も、自分に落ち度がなくても「配慮される側」として扱われることに傷つくことがあります。
障害を持つことに本人に選択の余地はなく、障害者雇用で働くのも選択というよりそれ以外の選択肢がない状況である場合も少なくありません。
障害者雇用で働いている場合、給与やキャリアなど待遇に明確な差がある中、障害者ではない人とも一緒に過ごさなければなりません。
自分と周囲の状況を比較することで自己評価が下がり、自己肯定感が失われがちになります。
自己肯定感の低下に対処し、ストレス解消の手段をもつことが対策になります。
自分に合ったストレス解消法を見つけましょう。
専門家または他者の力を借りる
他者の力を借りることで状況が打開できる場合もあります。
一人で抱え込まず、自分が利用できる制度や仕組みを調べてみましょう。
精神科医: 職場で周囲の人とトラブルを起こしてしまっていたり、症状が強く生活に支障をきたしたりしている場合は、精神科医に相談し、適切な治療を受けることも重要です。
医療機関でカウンセリングを受けることで、自分の気持ちを整理し、解決策を探ることもできます。
サポートグループ: 同じような悩みを抱えている人と交流することで、共感を得たり、アドバイスをもらったりすることもできます。
同じ悩みのある他の人を見ることで自分の客観的な状況に気づけたり、他の人の成功体験やテクニックを聞いて学ぶこともできます。
同じ悩みを持つ人とつながる: SNSなどオンラインで同じような悩みを抱えている人と交流することで、孤独感を軽減し、情報交換をすることもできます。
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まとめ
本人にとっても辛い状況
発達障害を持つ人が特定の人に執着してしまうのは、周囲の人にとっても本人にとっても辛い状況です。
執着される相手にとっては負担になり、本人は周囲とうまくコミュニケーションが取れず孤立しているからです。
状況に応じた適切な対応をすることで、問題点を少しずつ改善していくことができます。
発達障害の存在は広く社会に認知されてきていますが、社会的な課題は多く残されています。
発達障害を持つ人も周囲の人も、お互いを尊重し合ってコミュニケーションしていくことが大切です。
コミュニケーションを改善し、より良い関係を築いてければ、双方にとって利益になります。