仲間と居場所に勝る薬はない【支援を受けるのではなく、道を創るという選択肢】

「やりなおしの効かない人生はない」
言葉ではなく、行動で示すことは、とても難しいものです。
自身の現状に悲観し、打開策が見出せなくなる苦しさは、大変に辛いものがあります。

ワーカーズコープ「WORKERS NET RINGS」所長 木下史郎さんは、
ご自身の経験として、「仲間と居場所に勝る薬はない」と語ります。

 

木下さんについて

木下さんは、14歳から21歳まで音楽活動としてのパンクに明け暮れます。若くして燃え尽きることに憧れを抱き、刺青を入れ、ある種自虐的な生活を送っていたそうです。

19歳からは料理人としての仕事を始めました。子供も産まれたことから、刺青を消し仕事に没頭することとなりますが、一ヶ月400時間を超える多忙な日々を過ごします。お店をしているとお酒の機会も増え、ウィスキーを煽った後に仕事といったことも多くなり、お酒を飲まないと腕が震えるようになってしまいました。

そして38歳、アルコール依存症と診断を受け鉄格子のついた精神病院の閉鎖病棟へ。
仕事や奥様、子供を失うこととなってしまいます。

アルコール依存症を受け入れられる先を探すようにと医者から伝えられるも、
10件中、10件断られるような状況に、閉塞感を感じていたそうです。
そして時をほぼ同じくして2011年3月11日、東日本大震災が起きます。
被災の状況が明らかになっていくなか、何もできないことのもどかしさ。
子供や仲間、友人や仕事など、この世界に自分の役割が何もないことを、突きつけられるなか、
やがて、社会とつながりを求め、この世界で生きることの決意がみなぎってきました。
震災から二ヶ月後、ワーカーズコープへ入団することとなります。

仲間とともに

ワーカーズコープでの最初の仕事、調理場を経て、
池袋西口清掃現場で仕事をおこなうなか、充実感や開放感で体調の回復を実感できるように。
新たなメンバーの受け入れなども行うなか、統合失調症や知的障害、アルコール依存症、薬物依存、うつ、HIV保持、服役経験者など多様な背景をもつ方々に対し、「まずは箒もちりとりも持たなくていい、一緒に歩こう」と、お互いの体験を話すことからはじめたそうです。
もともと、精神病院で過ごした経験があるからか、人をカテゴライズしたりボーダーを引く感覚がなく、そのせいか、新たなメンバーと打ち解けることにも時間がかかりませんでした。
一人ひとりと向き合うことは、自分だからこそできる役目なのではないか、
アルコール依存症という経験が課せられたのはこのためなのではないか、
だからこそ、人の役に立てるのではないか。

この経験が原点となり、
「人と人を繋ぐ輪になろう、人と地域を繋ぐ輪になろう、事業所と事業所を繋ぐ輪になろう、そして皆で敗者復活戦へのリングに上がろう」
この輪とリングをかけた、「西部リングス」という名前で新たな事業所を設立することに。

その後も、順風満帆というわけにはいきませんでした。
震災への思いから、東京バイオマス福祉事務所の初代所長を引き受け、その他にも多くの仕事を抱え、再度入院となってしまいます。
「人の役に立つためには、挑戦し続けることが大切だが、体を壊してしまっては元も子もない。」この経験は、その後多くの関係者や仲間とともに歩み続けるうえでも貴重な体験でした。

2018年、WORKERS NET RINGSの所長となった今も、走り続けています。
リングスのテーマである、
「花よりも、花を咲かせる土と成ろう」
「既存のレールに乗る努力より、新しいレールを創る苦労へ向かおう」
この、道を創るという選択肢は、道をともに歩む仲間がいたからこそ見つけられたこと

いまは、体を壊してしまった昨年度よりも仕事が増えているそうです。
建設的な仕事への向き合い方などご自身の成長もあるそうですが、倒れても起き上がる逆境に負けない心が培われたこと、自立心や独立心、なにより信じてくれる仲間と居場所が薬となっているそうです。

行動を続けていくには、一人ではなかなか続けることが難しいものです。
そのための仲間は、案外近くにいるかもしれません。
今後のRINGSの皆様の歩みと活躍に注目してください。

RINGSの取り組み

RINGSの方針として、
障害の等級で区別されてしまうことのないように、
就労継続支援A型、B型の取得は行っていません。
支援するという態度ではなく、活躍の場を用意するという方針です。
この人たちと一緒に働くことができるためには、という視点を真剣に持っています。

社会に繋がりたくても、繋がれない方、
例えば、母子家庭支援寮や、保健相談所、ホームレス支援団体などにいらっしゃる方々も参加してくれています。

池袋の西口の清掃事業を継続して行なっています。
ひととまともに話せない方、約束を守って時間通り、ということが難しい方もいます。
清掃を通して、仲間と居場所を作るところから始めてもらえたらと思っています。
社会とつながりたいという思いは、実際は仕事を始めてみると真剣になるものです。

路上清掃だけでなく、個人宅のハウスクリーニングなどの清掃請負も行なっています。
メンバー40名中、20名は精神疾患などの当事者です。
ナチュラルハウスクリーニング(石鹸、重曹、クエン酸などの自然素材でクリニーニング)
は技術も必要で、数年かけて学んでいきます。

また、保育室の用務(渋谷区)の仕事にも取り組んでいます。
笹幡保育室とも連携をとり、仕事の幅を広げています。

仕事が広がっていくにつれ、ついていけない方も中にはいらっしゃいます。
ただ、解雇、クビは絶対に行いたくありません。
そのため、機動班ノアというできる仕事を創る取り組みも行っています。

・一般就労
・ジョブトレーニング
・中間的就労 週2、3日 4時間程度
※このサイクルを個人の状況により、当てはめていく。

一人ひとりが活躍できる環境を用意するために、真剣に取り組んでいます。

大切にしていること

1、仲間の変化と成長(9年間ひきこもり、清掃で中間的就労、用務の現場責任者)(19歳でホームレス、清掃で就労、最近結婚!)
2、団会議、事業団の集まりと話し合い(地域の祭事、連携に積極的に参加。地域の人と繋がって、見えない困難を解決。深い議論、オープンに自己開示するようにしている)
3、居場所づくり、仲間づくり、環境づくり

社会的孤立を経験すると、人の繋がりに感謝できるようになる。
「花よりも、花を咲かせる土となろう」
このテーマが示す通り、RINGSが地域や、困っている人たちを花とできるような土(環境)となる

私たちは、RINGSを総合福祉の拠点として育てていきたいと考えています。

写真前列中央:木下史郎さん

アルコール依存から立ち直ることができたのは、
仲間と居場所、そして仕事があったから
紹介記事

ワーカーズコープ