あなたの大切な人が、目の前で調子を崩し、からだを震わせ、めまいを訴え、死を感じてしまうほどの恐怖を感じていたら、どうしたらよいでしょうか?
もしかしたら、パニック障害の発作が起きたのかもしれません。
また、あなたの大切な人が、すでにパニック障害の診断を受けて、家に閉じこもっていたら、どう接すればよいでしょうか?これから、パニック障害について、発作への対処法や本人への接し方について説明していきますね。
知人や友人で、パニック障害の発作が突然出てしまった時はどうする?
「パニック発作」では、理由もなく急に息苦しさを感じ、激しい動悸や吐き気などが現れます。突然恐怖におそわれた本人をみて、まわりの人は驚くことでしょう。
しかし、知識さえあれば、大切な人を助けることができます。
応急処置としての対処方法
たとえ本人が苦しくても、パニック発作自体が死につながることはありません。発作から気をまぎらわせ、その場を切り抜けることに集中しましょう。
落ち着く居場所に誘導する
その場所から離れましょう。電車であれば、いったん次の駅で降りてください。すでに頓服薬をもっているなら、飲むように声をかけましょう。
落ち着けそうな居場所をみつけて、ゆっくり導いてください。座らせたり寝かせたりして、本人が楽に感じられるように工夫しましょう。
数分でおさまると語りかける
繰り返します。パニック発作自体によって死ぬことは、決してありません。「発作は数分でおさまるから安心するように」と、静かに語りかけてください。背中に手をあてたり、手をにぎったりすることも有効です。
呼吸法も大事だと伝達
息苦しさだけでなく、気持ちを落ち着かせるためにも呼吸法が重要です。
本人は余裕を失っていますから、「深呼吸をして!」と言うよりも「息を吸うより、長く吐くほうに注意を向けてね」と声をかけてください。
筋弛緩法も効果的。両手に拳をつくり、肘を曲げてギューッと力を入れさせます。そのままの状態を10秒ほど保ってから、パッと力を抜くように促してください。3回ほど繰り返すうちに、落ち着くことでしょう。
パニック障害の方への、普段の生活における適切な対応とは
パニック発作が、また起こったらどうしよう……と心配でたまらなくなるのが「予期不安」。
人混みや乗り物など、以前に発作が起きた場所を避けるようになる可能性もあります。これを「広場恐怖」と呼びます(避けるのは「広場」とは限りません)。
発作の有無にかかわらず、これらは、本人を普段から苦しめることに。
まだ受診していないのなら、心療内科や精神科に相談するよう勧めてください。一緒に行って本人の訴えを補足すると、診断や治療に役立ちます。
「努力」が足りないなどと叱るのは、やめましょう。脳や神経の働きに問題が起きている仕組みを知って、長い目で見守ることが大事です。
助言せず、ただ話を聞いてあげてください。そばにいるだけでもサポートになります。
次のことができるように、支えてください。
・休養して心身の疲れをとる
・好きなことをしてストレスを解消する
・入浴などでリラックスする
・散歩やストレッチなど、軽い運動をする
・栄養のバランスがとれた食事をする
パニック障害の根本的な対策
パニック障害には、専門的な治療が必要。広く行われているのは、薬物療法、精神療法、認知行動療法の3つです。現在のところは、これらが根本的な対策だと言われています。
パニック障害の治療方法
まずは発作が起こらないようにすることが重要。このため、薬物療法を行います。
精神療法として、医師から心理的なサポートも受けます。発作がおさまってきたら、認知行動療法によって「考え方の癖」などを改めていきます。
薬物療法
パニック発作は、脳の神経伝達物質などの働きに問題があり、脳や神経が過敏に反応しやすくなって生じる、と考えられています。
そこで、過度に神経が反応しないようにする薬が必要。主にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)または三環系抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系抗不安薬などを処方される場合が多いようです。
三環系抗うつ薬は神経の興奮を抑える効果が高いものの、副作用(便秘や口の渇き、眠気など)も強いのが難点。
そこで、現在は副作用が少ないSSRIが広く使われています。ただし、SSRIでも副作用の出やすい人がいますから注意してください。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、発作時に頓服する場合が多いようです。予期不安にも効果的。眠気、ふらつきなどの副作用があります。自己判断で急に中止すると危険ですから、気を付けてくださいね。
精神療法、認知行動療法
診察のときに医師が本人の苦しみに共感し、訴えを受けとめ、症状の起こる仕組みや対処を指導するのが、精神療法。
「逃げられない場所では絶対に発作が起きる」、「今後は人生を全く楽しめず、苦しいだけだ」などの偏った考えかた(認知の歪み)に気づき、行動を変えていくのが、認知行動療法。
認知行動療法では、発作が起きた状況を記録したり、認知の歪みについて治療者と話し合ったりします。
また、その一環として「曝露(ばくろ)療法」も行われます。刺激に対する「慣れ」をつくる方法で、恐怖を感じる場面のリストをつくり、ハードルの低いものから順番に、あえて、そうした状況にチャレンジしていくのです。
とくに曝露療法は途中で挫折しやすく、ますます不安を高め、症状の悪化につながる場合がありますから、必ず専門家の指導で行うようにしてくださいね。
参考資料:パニック障害・不安障害(厚生労働省)
パニック障害とどう向き合うか
厚生労働省の調査(2002~2006)によれば、パニック障害をはじめとする何らかの不安障害について、生涯有病率(その病気に少なくとも人生で一度かかる率)は9.2%です。
あなたの大切な人が、パニック障害に苦しむ可能性は十分あるわけです。
そんな場合でも、あらかじめ信頼できる情報に接し、対処法などを学んでおけば、大丈夫。なにごとも、問題と向きあうためには、十分な知識を得ることが大事だからです。
この記事をきっかけに、あなたも、あなたの大切な人も、どうか笑顔になれますように!